【WBC】総括

 決勝ラウンドに残ったのは日本以外は野球熱バリバリのカリビアンたちだった。
 日本のように様々なスポーツに力を入れて人口も億を超える国ではなく、国土は狭く、人口は少なく、野球が国技と言っていい国ばかり。
 そんな野球バカたちに交じってベスト4に残れたことは、昨年のシーズンオフあたりからのゴタゴタを考えれば、むしろ好結果だったと言える。
 
 さて、今回のWBCでわかったことはいくつかあるが、最も大きいのはこれだ。
 
・世界各国の野球のレベルアップ
 
 思えば第2回WBCを振り返れば、弱小と思われていたオランダが優勝候補のドミニカを2回も破って勝ち上がってきた。すでにその兆候はあったわけだ。
 今回で言えば同じくオランダの決勝ラウンド進出、あるいは2次ラウンドで敗退したが2試合とも1点差の熱戦を見せてくれたイタリアの奮闘などが挙げられる。
 日本と戦った国でいえば、中国、台湾などは、第一回、第二回ではコールド勝ちで当たり前といった国だったし、実際コールドで破ってきた。
 ところが今回、蓋を開けてみれば楽勝どころか終盤までは敗色濃厚ときた。
 もはや相手にして楽観視できるような国はなくなってきている。
 これらの各地における野球の普及と発展こそがWBCの本質であり、参加国はもちろん優勝を目指すが、この混沌とした戦力状況こそが野球界の未来に希望を与えてくれる。
 2大会連続で優勝、3回目は決勝ラウンド進出? いやいや、第4回は1次ラウンド敗退もあるのでは…?
 こう思った人も多いだろう。
 ドミニカやプエルトリコが強いのははじめからわかっていたので、決勝ラウンドの結果には何ら不思議はない。
 しかし台湾やイタリアの善戦、オランダの躍進、このあたりはまったくの予想外だった。
 これで第4回大会ではまた新たに躍進する国が出てくるんだろ? え、これ以上? 一体どれだけ混沌としてくるんだ…?
 怖くもあるし、楽しみでもある。
 普段触れることのできない各国のリーグのプレイヤーや、なかなか映像に出ないマイナーリーガー、一線を退いたベテランなど、見どころはてんこ盛りだ。
 
 
 自分はNPBよりもMLBばかりチェックしているので、今回、どのMLBプレイヤーが日本に最もインパクトを与えたのか気になるところではある。
 おそらくプエルトリコの魂、ヤディアー・モリーナだとは思う。
 WBCが終わって戦犯探しも落ち着き、ようやくメディアの憶測や意思統一がなっていない日本の首脳陣の談話ではなく、相手国の情報が入ってきつつある。
 日本が世界で一番緻密な野球をするんだ!と鼻息を荒くしていた人々は、準決勝を経験したことでそんな言葉は二度と表には出さないだろうが、
 投手力や層の厚さで劣ろうとも、相手を研究し、最善の策を探し、打てる手をいくつも用意し、「俺に任せろ」と引っ張ったモリーナの姿は、日本の誰よりもキャプテンシーに溢れていた。
 審判の癖を誰よりも早く見抜き、日本の打者の打ち気を悟り、内角と外角を丹念に突いて変化球を散らす。実際、プエルトリコのピッチャーは、阿部が言うような「すごい投手」なんて、それこそMLBレベルの投手はただの一人もいなかった。
 150km/hに届かない直球、そこそこのコントロール、投げる球はスライダーやツーシーム、チェンジアップ。誰でも投げる球で、特筆するような変化球はなかった。
 投手がすごかった? それは違う。すごい投手に見えるように組み立てられ、打ち取られていたのだ。
 
 日本のプロ野球をよく見ていた時期は、古田や谷繁がマスクをかぶった試合を見ていると、たまにあった現象だ。
 投手の調子は良くないのに、打者が面白いように打ち取られて、気がつけば試合が終わっている。
 近年はそういう試合はほとんど見かけることはない。
 特に統一球が導入されてからは、ストライクコースでも打ち取れるから、思い切った配球をする必要もなくなった。当てても飛ばないのだから。
 
 芯に当てる技術が低い。国際試合の動く球、ツーシームに打者が対応できない。
 このあたりの課題を野球界全体で克服していかないと、次回はより厳しい戦いを強いられることになるだろう。