トレーニング

 髪の毛が短いと寝癖にならなくて、かといって長すぎてもこれまた寝癖にはならなくて、しかしそのあいだのエリアを保つと不思議と毎朝ボンバヘッ。ぼ、ぼ、ボンバヘッ。歪になった頭を見ながら、電柱みてーだ、とか、構造的欠陥を感じる、とか、なんかニオう、とか、鏡さんとの会話を嗜むのが日課になりつつあります、竹仙人です。
 いきなりぶっちゃけますと、体重がゆるやかな放物線を描きっぱなしなんですね。いや、放物線って表現は、そうあってほしいというぼくの願望がロコツに反映されてそう言ってるだけで、実情はというと出始めのおしっこよろしく、斜め上に伸びっぱなしなのが非常に脇腹を気にさせてくれます。ぷにぷに。その場で全裸になって跳ねてみる。死にたくなった。
 というわけで有酸素運動ですよ。もう筋肉とかそんなのはいいから、ともかくまず優先的に時間と体力と自分自身が許す限り体全体のシェイプアップを図るしかねー。
 まず思いついたのが、縄跳び。たいていの人にとっては小学校で跳んでから向こう、記憶のメモリーから抹消されている、ちょっと童心に帰らせてくれるステキアイテム、縄跳び。実はこれがクセモノでして、運動不足な人は500回跳んだだけでも息が乱れ喘ぎよがり、ぱふぱふです。全身運動だし、何より場所をとらないし、短時間で肉体を酷使できるという、鍛えるには好条件が揃っておりますお客さん。でも、でもね。その場でできるってのが問題なんよ。ぼくみたいな怠け者は、疲れるとすぐ手を離しちゃうんよ。あ、急に離したからびよんびよんって飛んでっちった。今日はもう限界でしたっ、みたいな。
 問題はあくまで根気のない使用者にあるのはもう事実っていうか考えたくねえけど。やっぱりストイックなボクサーとかにしか使いこなせないアイテムだったんですよ!
 走ろう。母校まで往復で、走ろう。あの夕日に向かって、いや☆と月しか見えないけど、たぶん2キロくらいで、ちょうどいい。ジョギングのいいところは、距離を誤魔化すことができない点にあります。途中で歩くなんて、縄跳びと違って家までの道のりがすげー情けなくなるからできません。よしこれ名案だ。
 うんこしたくなった。
 やべえよ、ちょうど500メートル地点で、そのために家に戻るのもようやくばからしくなってきた距離で、いきなり腹の底から何かが食い破ってでてきそう。肛門食い縛って耐えながら、なにかステキなことを思い浮かべながら、考えないようにしながら、ぼくは駆けた。ともかく駆けた。途中から疲労なんて感じなかった。ラスト200メートルではマラソン選手かくやというスパートを見せた。野糞っていう選択肢もあった。でもぼくはしなかった。母校に通うかわいい後輩たちに、「うわあ、道路の真ん中にうんこあるぅ」って嘲笑される絵がやけに鮮明に脳裏を過ぎったからだ。まさか明晰夢じゃないだろう。予知夢じゃないだろう。そんなわけないだろう? するときは、草むらに……いやしない、しないってば。
 割と、ここ半年でいちばんやばかった、かもしれない。