一目惚れ

 アルバイト。もはや週6ペースになりつつあり、すでに大学以上に日常のパーツに組み込まれている気すらする。そんな中、今日も今日とて路銀を稼ぐため、着慣れた半袖に腕を通し、パンを出したりパンを並べたり、あと色々出したり入れたりする自分であった。
 そんな折、一人のお客様に声を掛けられた。大方、品物の場所が分からないといった内容だろう。よくあることだ。十秒で案内してとっとと仕事の続きを。そう思いながら客の方を向く。若い女性の声だったことに一抹の期待を寄せながら。
 呼吸が止まった。心臓は逆に暴れだした。目と目が合う。耐えられず、すぐに逸らす。用件を聞く。予想と同じ内容。案内する。なるべく振り返って顔を見るようにしながら。この時間がずっと続けばいいと思う。思った瞬間に終わりがくる。ありがとうございました、と彼女が言う。ありがとうございました、と自分も言う。営業用の声が出せていたか心配だった。
 肩口で切り揃えられた黒髪。シマリスを連想させる、小さく、つぶらな瞳。いぢめる? いぢめる? そんな声が聴こえてきそうだ。むしろ俺をいじめてください。踏んでください。そして小柄な体躯。150cmあるか、どうか。発展途上だが、将来性はまだまだありそうだった。
 問題があるとすれば、彼女が母校(中学)のジャージを着て、さらにネームプレートの学年欄に金メダリストと同じ順位の数値が刻まれていており、加えてこれを書いている自分がこの世に生を受けて20年以上経過している事実だが、そんなことはこの気持ちを前にすれば些細な問題である。見た瞬間、衝動的に抱きたかった。唇を奪いたいと強烈に思った。彼女の笑顔が見たいと強く願った。結局どれもかなわなかったけれど、きっとこの先出会うであろう彼女の伴侶となる男に、是非ともその夢を託そうと思う。願わくばお知り合いになりたいものだが、それもきっとかなわない。彼女が男性に夢を与える職業に就いてくれることが最も望ましいが、それも抵抗がある。
 あーAV女優になってくんねーかなー。
 
 そんな、バイト中に起こったちょっぴりセンチメンタルなお話。