6月、どうしたものか巨人打線

 巨人が出血大サービスで貯金をすべて放出、とうとう借金生活に突入し、なおも着々と増やし続けている。3番、4番と打線の軸が機能しているだけでもどん底ではないと思うのだが、他があまりにも打てていない。今の巨人には、たとえば4月の矢野のような、一人でティームを引っ張っていると思えるほど好調な選手が、クリンナップの他に一人は必要だ。月が変わるころになって高橋由伸、阿部の両名が戦列に復帰したが、数試合見たかぎり、高橋はまだ勘が取り戻せてないようだ。阿部はヒットはそこそこ出ている。そして、彼らの復帰に合わせて不動の3番二岡が調子を落としているのが気がかりだ。阿部に長打が出るようになれば、などと言えるようなティーム状態ではないことは確かである。ヒットが出ているだけでも、現在の打撃スタッフの中では貴重なのだから。原監督は個人のレベルアップをコメントしていたが、果たしてどうだろう。中日の朝倉に完封された試合を見ていて、今年の巨人は、ともう言ってしまっていい頃合だと思うが、好投手にかかると策もなく敗れるケースが目立っていると殊更に感じた。見ていて、狙い球を絞っているのかいないのかよくわからないのだ。絞っているなら仕留め損ないが多すぎるし、絞ってないならせめて好球必打を徹底させるべきだ。甘い球を見逃しすぎだし、ボール球に手を出しすぎ。あれもこれも手を出して投手を打ち崩せるほどの打線ではない。阪神戦の3戦目に見せた、クリンナップ3人連続初球打ち一点二塁打は見事だったが、あれは偶然でしかなかったのだろうか。バッティングコーチはおそらくもう何度となく口にしているだろうが、巨人打線はもっと出塁することにこだわるべきだ。安打を増やすことでも打率を上げることでもなく、ただ出塁を優先するべきだ。また、それと合わせて、これは今年だけの話ではないが、良質なリードオフマンを作り上げるべきだ。なにしろ、クリンナップを前にランナーが溜まっているという場面が少なすぎる。打率がリーグ2位、本塁打がリーグトップを独走しているイ・スンヨプが、打点では他3ティームの4番打者に先を越されているのは、イ本人がチャンスに弱いという事実を除いてもなお、そこに原因がある。
 
 1番打者の理想像としては、1)出塁数が多い 2)得点が多い 3)足が速い、4)高打率をマークできる 5)選球眼が良く三振が少ない 6)試合を欠場しない 7)守備も安定している、などが挙げられるが、セントラル・リーグで最良のリードオフマンは、現段階では東京ヤクルトスワローズの青木選手である。今年の成績だけを見れば、リードオフマンに必要な全ての要素を兼ね備えているといっていい。WBCでメジャーリーガーのイチローと接し、意識が変わったのかどうかはわからないが、今年はとにかく四球を選んでいる。打率は昨年と比べ若干落ちているが、四球数はすでに昨年の37を上回っているのだ。スラッガーではない青木が四球数でリーグ2位につけているのは驚くべきことである。それに合わせて昨年は100を越えた三振数が、半分を消化したところで30台と、選球眼の向上が見て取れる。四球数が激増している事から、球をじっくり見ていく勝負の遅い打者になっているはずだが、にもかかわらず三振数を減らしているのは脅威と言える。三振を減らし、四球を増やす、この二つを同時に満たしているということは、やはり選球眼を相当磨いたのだろう。出塁率も4割を超え、得点もリーグ2位につけている。コツを掴んだのか技術が向上したのか、盗塁の数も昨年の29に残り4と迫っている。非の打ち所が見つからないとはこのことだろうか。これは、イチローと比べてもなお、青木の方が良質なリードオフマンであると言えるかもしれない。イチローはボールゾーンに自分のヒットゾーンを持っているために悪球に手を出すケースが多く、三振は少ないものの四球も非常に少なく、出塁率も.372という高打率を記録した2004年を除いて4割を超えたことがない。その点、今年の青木とは対照的だ。
 
 巨人でリードオフマンの適正があるとすれば、色々なところに目をつむって出てくる名前が鈴木と清水なのだが、鈴木は打率に問題があり、清水は早打ちすぎるきらいがある。くわえて清水は盗塁も期待できないし、守備にも難があり、四球も選べない。それでも使い続けてきたのは毎年打率3割を残せる打撃力を買ってのことなのだろうが、.250にも届かない現状ではとてもリードオフマンとして機能しているとは言いがたい。調子が悪くてもせめて好球必打であってくれればいいのだが、難しい球に手を出しすぎて打率を落としているようではとても任せられない。
 
 元阪神ジョージ・アリアスを獲得した巨人。今の清水を一番で使うくらいなら、下位打線にアリアスを置いた方が得点力はアップするだろうとは思う。元から両者とも守備で期待はされていないので変わらないだろう。ただし代わりに一番を打つのが誰かという問題も残る。川中、もしくは小関か。走力はなくはないが、盗塁は期待できそうにない。後半戦の打順は、3番二岡、4番イ・スンヨプ、5番小久保、6番高橋、7番アリアス、8番阿部、と予想される。清水がセンターに回って1番に入るか、高橋をセンターで固定してライトを競わせるか。いずれにせよ空きが一つしかない外野は、小関、清水、川中、鈴木、大西など、激戦区だ。矢野の怪我の具合はどうなのだろう。
 月が変わってオールスターも近づき、シーズンも半分を折り返した。昨年のような重量打線に流れつつある巨人打線。4月に見せたスモール・ベースボールは、さて、今ごろどこで何をしているのだろう。
 
 
 
 アリアス加入後の戦力で予想されるスターティングメンバー。()内は対左投手
 
1番 セカンド  小坂、木村(仁志)
2番 ライト   小関、亀井(大西)
3番 ショート  二岡
4番 ファースト イ・スンヨプ
5番 センター  高橋
6番 レフト   アリアス(清水……の出番はいずこへ)
7番 キャッチャー阿部
8番 サード   川中、古城(ディロン)
 
 今年の巨人の怪我を除いた一番の誤算は、小坂、仁志の両セカンドが揃って絶不調であること。せめて.250くらい残してくれないと計算が立たず、現状のようになる。よもや二人揃って一割台で低迷することになるとは誰も思わなかったろう。アベレージヒッターであるはずの清水も低打率で低迷したまま上昇の気配がない。三振が少なく、左右関係なく率を残す好打者だったのに。
 新しく取ってきた外国人(ディロン)は例によって微妙。守備には目をつむるにしてももう少し打ってくれないと、例年と何も変わらない。長打はともかく率はもう少し残すだろうと踏んでいたのだが。お家芸の他球団のお下がり獲得した外国人選手しか活躍しないってのは、いくらなんでもスカウティング能力が低すぎるだろう。