人生天気天気

 バイト先でのことです。
 うちのスーパーは、きっちりと部門分けがされておりまして。まず店内の外周に、野菜を扱う野菜部門、果物を扱う果物部門、肉を扱う精肉部門、魚介類を扱う鮮魚部門、惣菜その他出来合いの料理を扱う惣菜部門があります。他にレジと、雑事を処理するカウンター、そして俺が所属しているドライ部門。ドライって聞くとピンとこないかもしれませんが、要は商品の品だしを主として行っている力仕事です。上に挙げた部門に所属していない箇所、つまり店内の内側全部が活動エリア。既製品、調味料、軽飲料、日配品、お菓子、雑貨、パン、乳製品等々。これらを補充したりきれいに並べたりするのが仕事です。
 各部門はそれぞれ、主任と社員の二名で構成されています。ここで本題。今回のお話は、ドライコーナーの社員の方と俺の、ささやかなラヴ・ストーリーです。
 うちのスーパーは、例外を除くとレジ以外は男性限定で、代わりにレジは女性限定でアルバイトを募ってます。俺が所属しているドライの社員の人……Fさんと仮称して、Fさんの話によると、アルバイトの中に、どうも俺にアプローチをしようか迷っている人がいる、とのこと。Fさんは基本的に生真面目で、仕事はきっちりこなす人なんですが、反面ふざけるときはしっかりボケてくれる人です。で、十日くらい前に、どうもその会話の場面に直面していたらしく。言わないでくださいと口止めされていたにもかかわらず、俺にそのことをポロリしちゃった、と。当然気になりますね。気にならないわけがありませんね。というか、こうして冷静ぶってますが、仕事中は興奮してしまって仕事になりませんでした。マジか。アルバイト内ですっかりキモキャラとして定着している俺に……て、こんな浮かれていると中学生並みって言われそうだけど。だってだって、嬉しいじゃない! ……それにしても、人生二十年目にしてようやく春か?! というわけで、昨日と今日、暇さえあればしつこく何度も訊いたんですが、言わない、の一点張りで教えてくれません。会話形式で再現してみます。
 
竹「いや、教えない、じゃなくて、スゲー気になるじゃないですか! そんな存在だけ教えられたって生殺しじゃないスか!」
F「いや、だって勿体無いじゃない」
竹「勿体無いって……んな殺生な」
F「俺から見ても、アリじゃない? っぽい人」
竹「つーと可愛いんですね」
F「俺的にはね」
竹「せめてヒントを」
F「たとえば?」
竹「性格とか、特徴とか。なんかあるじゃないですか」
F「いや、教えるのと一緒だろそれ」
竹「じゃあ、年上か年下か、だけ」
F「年下」
竹「で、どんな風な話してたんで?」
F「いや、なんか君のこと気に入ったらしいけど、話したことないからって俺に聞いてきた」
竹「……変なこと吹き込んでないでしょうね?」
F「いや、別に。見たとおりキモい人だよ、とか、毎晩一人でやってる、とか、自分で自分のを咥えてるらしいよ、とか、そんなこと当然言ったよ
竹「俺のこと知らない人に言うことじゃないじゃないスか、それ! つか誰もやってねえし!! 信じちゃったらどうすんですか!」
F「まあそんときはそんときで。つーか君には勿体なさすぎるから」
竹「いいからッ、いい加減教えてくださいって!」
F「俺がここで教えて、それでそっちが冷めちゃったりしたら、向こうが可哀想だろ。それに言わないでって言われたし」
竹「だったら最初から言わないでくださいよおおォ!」
F「うん、もう、いーじゃん。なかったことにして」
竹「いまさらできるかよ! 胃に穴があきそう……気になって夜も眠れない」
F「さー仕事仕事」
竹「で、その子、俺に何かしそうスか?」
F「いや、する気あるならもうしてるだろ。十日も前だからなあ……」
竹「……Fさんが変なこと吹き込んだせいで、冷めちゃってたりして」
F「ああ、ありえる

 ……などと。結局今日も教えてくれませんでした。あー、誰なんだ……二月だってのに、春がどんどん遠のいていく――